倉本 栞 ローコード テクニカル スペシャリスト & エバンジェリスト
日本マイクロソフト株式会社
2024年6月7日にPower Platformのユーザ会イベント「パワプラ関ヶ原」というイベントを行いました。参加者がその場で15分の間にアプリ作成をするなど、大いに盛り上がったイベントの様子をご紹介します。ユーザ会「Nippon PPEC」の取り組み
このイベントを主催した Nippon PPEC(Power Platform Enterprise Community)は、Power Platform を活用して業務変革を実践する日本企業が相互支援をするためのコミュニティです。2021年8月に東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)とトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ自動車)のオンライン交流会「DXユーザ会」を日本マイクロソフトが仲介する形で活動を開始し、2023年11月、製造業以外にも業種を広げるにあたり、名称を「Nippon PPEC」に改めました。会長をトヨタ自動車の永田 賢二氏が務め、組織の壁を超えたご縁が拡がり、参加企業は現在その数、約300以上、参加者総数は約1,400名となりました。デジタル変革と企業活動の強化をするという目的のもと、情報提供、イベント開催、会社間の交流仲介など、今までにない全く新しい活動をしています。その活動の基盤となっているのがPower Platform という、マイクロソフトが提供するローコード・ノーコードプラットフォームです。Power Platform には、Power Apps(アプリ開発)、Power Automate(システム連携・フロー開発)、Power Pages(Webサイト開発)、Power BI(ビジネス・データ分析)、Microsoft Copilot Studio(AIチャットボット開発) の5つの製品があります。これらの製品を組み合わせることで、業務の効率化、可視化、自動化、対話化を実現できます。また、Power Platform は、Azure や Microsoft 365 などのマイクロソフトのサービスとシームレスに連携できるだけでなく、AI(AI Builder)を使って、簡単に生成AIを始めとする先端技術を業務に組み込むことができます。イベント「パワプラ関ヶ原」概要
東西対抗型のイベント開催に至った背景
2024年6月7日にNippon PPECのイベントとして開催された「パワプラ関ヶ原」は2023年9月からその構想が始まりました。きっかけは日本マイクロソフトの営業が仲介のもと、トヨタ自動車とダイキン工業株式会社(以下、ダイキン工業)交流会をもったこと。トヨタ自動車の永田 賢二氏とダイキン工業の西川 良太氏が懇親会で親睦を深める中で「Power Platformで東西対抗戦をやりたい」という話題になりました。それを皮切りに、西川氏からマイクロソフト営業へ打診を行い、2023年年末ごろから本格的にNippon PPEC運営チームで実現に向けた議論・準備が始まりました。今回Nippon PPECとして初めてのハイブリッド(西と東でオンサイト会場を用意し、オンライン参加もあり)のイベント開催であったため、会場準備・機器準備、調整などに難航するも、着実に準備を進め、開催当日6月7日を迎えました。イベント当日の様子
当日、会場は日本ビジネスシステムズ株式会社(JBS)Lucy’sをお借りし、西は大阪梅田、東は東京虎ノ門にて開催しました。会場には西に55名、東京に40名、オンラインで約200名、参加企業数は東西合わせて86社でした。
西軍会場の様子
当日は以下のようなアジェンダで3時間のイベントが行われました。
- オープニング
- Power Platformクイズ
- アプリ早づくり対決
- Microsoft MVPが語るPower Platform
- クロージング
それぞれのプログラムで行われた内容や様子についてレポートします。まずは、イベントの象徴的なプログラムとなった「アプリ早づくり対決」について先に概要をご紹介します。
アプリ早づくり対決で作られたアプリ
このイベントはオンサイト・オンラインハイブリッドのリアルタイムで開催され、オンサイト参加者の中から18名の精鋭が「アプリ早づくり対決」に参加。Power Platformを使用して、15分でのアプリ開発に挑みました。
6チーム(1チーム3人)が同じテーマの「名刺読み取りアプリ」に挑戦し、チームごとに共同開発を行いました。
このアプリには、機能要件として、「名刺を撮影して画像を取り込む」、「取り込んだ画像から名刺情報を取得」の2点が求められました。それぞれのチームでは、他にも以下のような機能をアプリに実装し、持ち時間15分の開発時間終了後に、実際にデモンストレーションしました。
【実装した機能】
名刺を読み取るためのカメラ撮影・画像選択
画像からテキスト情報を取り込むためのAI
読み取ったデータをデータベースへ保存する
保存されたデータをTeamsに通知する
溜まったデータを管理する(データの一覧表示、詳細編集)
名刺を受け取った場所を取得し、地図で表示する
このイベントでもたくさんの名刺交換が実施されましたが、15分で開発したこのアプリを使ってその場で名刺管理を行うことができそうですね。
Power PlatformのPower Apps、Power Automate、AI Builderの機能で実装されています。
アプリで名刺を読み取っている様子
アプリの裏側の通知機能の開発画面
名刺を読み取ってデータ化。さらに交換した場所を取得し、表示するアプリ
詳しいアプリ開発の様子は後述のレポートでご紹介します。パワプラ関ヶ原 プログラムレポート
オープニング
14:00ちょうど、開催時間となり各会場では参加者が席に着き、Nippon PPEC副会長である佐々木 隆太氏(富士フイルムビジネスイノベーション株式会社)がその火蓋を切りました。「Power Platformを武器に戦うパワプラ関ヶ原、始まります!」西軍大将 西川氏と東軍大将 永田氏による名乗りが行われ、それぞれの軍の士気が上がった状態でイベントがスタートしました。
Power Platformクイズ
会場の空気が温まり始めた中で始まったのは、最初の対決「Power Platformクイズ」です。それぞれの軍にて3名ずつ代表者を選出し、Power Platformに関する知識を問うクイズを実施しました。シンプルな4択クイズでしたが、「IsEmptyは何を評価する関数?」や「Power Appsキャンバスアプリ毎で設定できる条件付きアクセス機能でできることは何?」など、難易度の高い問題が並び、問題が出る度に会場からはどよめきが起こりました。両軍の代表者たちは苦戦を強いられながらも正解をたたき出したり、大どんでん返しがあったりするなど、大いに盛り上がる攻防が続きました。すべての問題が終了したのち、1位が西軍、2位、3位が東軍という結果になりました。 優勝した西軍にインタビュー
アプリ早作り対決
Power Platformクイズで会場が盛り上がる中、次に行われたのはアプリ早作り対決でした。この対決では、東西それぞれで3名×3チーム、総勢18名がPower Platformでアプリ開発を行うということが説明されました。ルール説明ののちに、参加者、開発チームの皆さんに初めて今回のアプリのテーマが発表されます。
今回のテーマは、名刺画像から内容を読み取る機能を必須要件とした「名刺読み取りアプリ」が発表されました。時間がある場合はその他にも様々な機能をアプリ内に入れ込むことが可能で、内容によって加点されます。
15分という厳しい時間設定の中、ついにアプリ開発がスタートします。
当日初めて提示されたお題
当日「初めまして」から始まりつつも上手に役割分担をするチームや、事前にコミュニケーションを取り準備をしていたチームなど、チームによって特色が分かれるようでした。各チーム3人で開発するため、各自のパソコンの画面でPower AppsやPower Automate、Dataverse、AI Builder、SharePointなどそれぞれの機能を開発するためのサービスにアクセスし、機能ごとに開発の分担を行いました。チームは隣の席に座り、相談しながら、別々に手を動かしながらも協力して開発に取り組みました。名刺画像のAI認識は、AI Builderを使うことによって素早く機能をアプリの中に入れ込むことができます。まずはこの機能を知っているかどうかが肝でしたが、各チームの方々は当たり前のようにまずここから着手しているようでした。 名刺読み取りアプリの開発画面
読み取ったデータをデータベースへ保存する機能や名刺を受け取った場所をアプリの中でマップ表示する機能もPower Appsのローコード開発で実装しているチームや、保存されたデータをチャットツールのTeamsに通知し、承認ワークフローを回す機能をPower Automateでローコード開発をしたチームもいました。
他にも、Copilot in Power Appsを使って自然言語で名刺のデータを管理するためのアプリを作成したり、本格的なプロ開発サービスのAzure OpenAI Serviceと接続して、音声を使った読み上げ機能をさらに追加するなど、開発方法に工夫をすることで、ほかのチームと差別化したチームもいました。
生成AI を呼び出す仕組みをアプリに組み込んだ
応援に駆け付けた参加者も立ち上がって開発チームを見守る中、開発時間の15分が終わると、すべてのチームが手を止め、次は作ったアプリのお披露目に移ります。
すべてのチームが15分間でアプリを完成させ、チームごとのアプリを動かして、説明しました。
各人でそれぞれの機能を開発し、それをチーム内で接続・テストするだけではなく、発表・デモンストレーションまでをこの時間に行ってくださった皆様に、会場、オンラインともに賞賛の声が上がりました。
そして、ついに全チームのユニークなアプリが紹介された後に、参加者の方から投票が行われました。結果的に、アプリに必要なコアとなる重要機能(名刺の読み取り、データへの書き込み、承認通知機能、アプリのデザイン)を着実に作り上げた西軍のたこやきチームに軍配が上がりました。
アプリ早作り対決一位が発表された瞬間の会場の様子
Microsoft MVPが語るPower Platform
今回、Nippon PPECのイベントのもう1つの企画として、Microsoftサービスに対する高度な知識や経験を持ち、それを広める活動を行うMicrosoft MVPの方々に講演を依頼していました。現場にはMicrosoft MVPの表田 陽(Akira)氏と田辺 友花 氏(たなさん)も応援に駆け付ける中、Microsoft MVP中村 亮太(りなたむ)氏、同じくMicrosoft MVP山田 晃央氏(やまさん)に、Power Platformについて語っていただきました。
「『パワプラ愛』を考える」というテーマで、山田 晃央氏の講演が始まります。ローコードでアプリを提供することで業務が効率的に行うことできるようになること、1400以上のコネクタを使ったシステム間連携ができること、セキュリティ、Power Platformの中でアプリだけでなくいろんな開発を行うことができることなど、みんなの「Power Platform Love!」をおさらいしました。そのうえで、Power Platformを上手く活用していくためには、全部自分たちでやることにこだわらず、部分的にプロに頼ったり、コミュニティの仲間と助け合ったりすることの重要性について説明しました。
さらに、「”小さく試す”を”気軽にやれる”」、そして、それを繰り返し、最適解を見つけることができる、というPower Platformの開発の大きな特徴 、可能性について言及し、「まずは試すところから始めましょう」と講演を締めました。
山田 晃央氏「『パワプラ愛』を考える」の講演
次に、「『市民開発者』と『コミュニティ』」という題名で、中村 亮太氏の講演が始まります。Power Platformなどローコードツールを使う開発者「市民開発者」の必要性について、生産人口の減少の観点から説明しました。また「市民開発者」の定義についても触れます。ただの「プロ開発者の簡易版」という立ち位置ではなく、ビジネスのプロである側面を生かして「ビジネスにおいて最適なシステムを提案、開発を行っていく人」であると語りました。実際に身近で感じている業務課題をどう改善するか、という視点でアプリを設計をしていくことができるため、効果の高いシステムを作ることができます。「市民開発者として気をつけること」として、“何事も完璧を求めないこと”、“最初から難しいものを作らないこと”を例として説明しました。またコミュニティの重要性についても言及し、アウトプットを行うことでより自分の知識を深めることができると述べました。その原動力である成功体験は、他者からの称賛によって得られるものであり、称賛を得るためには自らの成果をアウトプットする必要があります。同じ志を持つコミュニティの中でその循環を回していく(コミュニケーションフィードバックループ:Communication Feedback Loop)ことこそが、内製化において非常に重要なプロセスであると説きました。 中村 亮太氏「『市民開発者』と『コミュニティ』」の講演
アプリ早づくり対決に参加したようなPower Platform精鋭部隊から、まだ実際にPower Platformに触ったことがないという方まで、様々な層の参加者が集まる中、Power Platformや市民開発への理解・愛がより一層深まった時間となりました。
お二人の講演資料については以下リンクからダウンロード可能です。気になる方はぜひご覧ください。
クロージング
この会の締めくくりに、関ヶ原戦の勝敗の結果を発表しました。結果は西軍が優勝、東軍は敗北という形になり、西軍・東軍それぞれの大将からは首都が京都になったことと、次回へのリベンジを誓うコメントがありました。各軍の熱気が冷めやらぬまま、次回への期待を残し、3時間の戦に幕を閉じました。
結果発表直後の西軍の様子
敗北の言葉を語る東軍大将 永田 賢二氏
[特別対談] 西軍大将 西川氏vs 東軍大将 永田氏
多くの企業が繋がれたのは大きな財産と感じております。 日本企業のさらなる活性化、発展につなげたいです 。 西軍大将・西川 良太氏(ダイキン工業) 参加・協力いただいた皆さんに感謝します。
さらに組織の壁を越え、デジタル変革が行き渡るような活動をしていきたい。東軍大将・永田賢二氏(トヨタ自動車) パワプラ関ケ原から1か月後。大阪某所で両軍大将が対談を行い、イベント開催の経緯や今後の活動への想いを語りました。(以下、敬称略)
※司会・記事まとめ:タイガー(市民開発コミュニティ「パワプラのトラ」コミュニティエクセレントオフィサー)
司会「本日はよろしくお願いします。まずは今回のイベントの感想を一言ずつ」
西川「これほど多くの企業様と繋がりを持てたのは大きな財産です。これをきっかけに日本企業の活性化と発展につなげたいと思っています。」 永田「東軍は負けてしまった事は残念でしたが、とても楽しいイベントでした。まさか、雑談でのアイディアが、こんな形で実現するなんて思っていませんでした(笑)。」
司会「雑談ですか?もうすこし詳しく経緯を」 永田「昨年の9月、弊社がダイキン工業様にお邪魔してDXに関する交流会をさせてもらい、その後の懇親会の席で企業間の交流を増やしたいという話になったんです。」
西川「関西の企業間交流は既にやっていたので、関東の企業をまとめてもらえば東西対抗ができる。東西対抗だから『関が原』ですね、みたいな。アイディアとしては安直でしたね(笑)」 永田「私も半分・・・、いや9割ぐらいは冗談と思って話に乗っていました。まさか本気ではやらないだろうと(笑)。」 西川「永田さんが冗談でしょ!と感じられているのは伝わっていましたよ(笑)このままだと社交辞令的なお話で終わってしまうと感じ、私が粘り強く Microsoft の営業担当者様にご相談をして、合意を取り付けることができました。」
永田「企画内容も時期も決まっていなかったのですが、退路を断つためにNippon PPEC 内で勝手にイベントの告知をさせてもらいました。」
司会「勢いだけで開催にこぎつけた感じですね(笑)。」 永田「私と西川さんは、勢いだけですね(笑)。
Microsoft、JBS、Nippon PPEC メンバーの皆さまにしっかりとサポートしてもらったおかげで、開催することができました。本当に感謝しています。」 西川「大阪会場、東京会場、オンラインで多くの方に参加いただけました。」 永田「そうですね。盛り上げてくれた参加者のみなさんにも感謝しています。」 司会「各会場とも大いに盛り上がっていました」 永田「はい。企画の目的だった企業間交流は達成できたと思います。また、Microsoft MVP の りなたむさん、やまさんたちとの接点ができたことも大きな成果でした。」 西川「Nippon PPEC 内のクローズドなイベントだったのですが、参加者の SNS 投稿を見て、興味を持たれた外部の方もいたようです。できれば、オープンなイベントでもやってみたいですね(笑)。」 永田「二拠点開催で音声が聞き取りにくかったという参加者のご意見をいただいたので、次回は名古屋に全員集結して開催すれば解決しますよ(笑)。」 西川「そうなれば、まさに天下分け目の戦い!!(笑)」 司会「最後に今後の展望をお聞かせください」 西川「昨今、日本企業はデジタルを活用した“変革”の道を進んでいます。 その中で、“変革”を実行する人材の一人一人にデジタル技術の向上や変化に対応できる力が求められています。それらを身に着けるためには参加者同士の知見をシェアでき、 学び合える「コミュニティ」は非常に有効だと考えています。 また、現場最前線の方々がデジタルという武器を手に変革できる「市民開発」も欠かすことのできない重要な要素だと思います。 今回のイベントを皮切りに、より多くの方に「コミュニティ」と「市民開発」の素晴らしさを伝えていきたいと思います。 これからも引き続き、よろしくお願いします。」 」 永田「DX は前例の無い取り組みであり、誰も正解を持っていません。そのため、素早く手元でトライできる『市民開発』と、外部の知見を活用できる『コミュニティ』は、非常に重要なアイテムだと私は考えています。ただ、直接的な投資対効果がわかりにくいため、上位者に理解してもらうのは困難。Nippon PPEC の活動を通じて『市民開発』と『コミュニティ』の有用性を広め、各社に DX を行き渡らせることができたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。」 左:永田氏(トヨタ自動車)と 右:西川氏(ダイキン工業)
さらなる市民開発やコミュニティ活動の活性化
今回はPower Platform というツールを中心に始まったNippon PPEC の取り組みであるパワプラ関ヶ原をご紹介しました。Nippon PPECは、情報提供、イベント開催、会社間の交流仲介などの活動を今後も行い、各社内の市民開発やコミュニティ活動を活性化していくことを通して、デジタル変革と企業活動の強化を行っていきます。Nippon PPECへの入会方法
以下のメリットや対象業界、入会資格を確認したうえで、入会フォームに必要な情報を入力して下さい。- 参加のメリット:ネットワーキングの機会、学習セッション、Power Platformの経験共有
- 対象業界:製造業、自動車産業、鉄道業界、鉱業、建設業、食品産業、医療・健康関連業界、IT(情報技術)業界、金融業界、不動産業界、プロフェッショナルサービス業界、旅行・観光業界、ゲーム・娯楽関連業界、商社・小売・流通業、エネルギー業界、航空・船舶業界、環境・エコロジー関連業界、通信業界、政府・公共部門、教育業界、農業
- 入会資格:Microsoft営業担当が付いているお客様企業グループに所属、DXやIT部門、Power Platform市民開発に関わる方で自身の取り組みを共有・発信できること