(本投稿は米国時間2022年1月11日付のブログ投稿の日本語抄訳です。内容に齟齬がある場合、原文を正とさせていただきます。)
Microsoft Ignite では、Microsoft Dynamics 365 Marketing に追加された新しい AI 機能 (英語) を発表しました。マイクロソフトは AI の力で企業とそのお客様の成長を支援できると確信しています。同時に、そうした新しいテクノロジには、悪用されたり害を及ぼしたりする可能性があることも理解しています。
そのため Dynamics 365 Marketing では、意図のある厳格なアプローチを取ることによって、マイクロソフトが掲げる責任ある AI の原則を遵守しています。AI の開発では、まず人や社会に対して AI がもたらす潜在的な影響を理解したうえで綿密に精査、検討、研究を行う必要があり、その後、起こりうる弊害を軽減するためのソリューションを模索します。
Satya Nadella が言うように、マイクロソフトの歩みは信頼の上に成り立っています。そして、信頼は短期的にも長期的にも獲得していかなければなりません。Dynamics 365 Marketing において「責任ある AI」とは、信頼を証明するための機会、そして、イノベーションへの道と捉えています。つまり、弊害を最小限に抑え、お客様やその顧客にとって有意義で快適なエクスペリエンスを提供する力を拡大するための手段なのです。
ここでは、新しい AI 機能の中から、「コンテンツ アイデア」についての取り組みを詳しく説明しましょう。
コンテンツ アイデアとは
Dynamics 365 Marketing のコンテンツ アイデア機能を利用すると、マーケティング担当者は、メールのアイデアを得て、最適な文面をすばやく作成できるようになります。マーケティング担当者がいくつかキー ポイントを入力すると、コンテンツ アイデアがそれに基づいてオリジナルの文面を生成してくれます。また、その顧客への過去のマーケティング メールを参照して、文章のトーン、構成、スタイルに寄せてアイデアを提示してくれるため、マーケティング担当者はメールの文面をゼロから作成する必要がありません。実にパワフルで先進的な機能です。
この機能を支える AI テクノロジは、OpenAI が開発した「GPT-3」と呼ばれる大規模言語モデルです。現在は、マイクロソフトの Azure OpenAI Service の一部として招待制のプレビューで提供されているほか、OpenAI の API を介して利用することもできます。GPT-3 は、テキストを要約したり、文章から感情を分析したり、あるいはコンテンツ アイデアに応用されているように人が書いたようなオリジナルの文面を生成したりと、さまざまな自然言語タスクを実行することができます。GPT-3 は業界において進歩の著しい AI モデルの代表的なものの 1 つであり、AI の性能を急速に高めてお客様に価値をもたらしています。
しかし、GPT-3 のような大規模言語モデルにはリスクもあります。たとえば、事実に反する内容を作り出したり、学習に使用される膨大なデータセット (GPT-3 の場合、インターネット上の約 45 TB ものテキスト) の偏りを反映した内容を出力したりすることがあります。そうしたリスクを軽減するために、OpenAI とマイクロソフトは、GPT-3 の使用によって生じる可能性のある安全上の問題をお客様が把握できるようにサポート (英語) し、安全のためのベスト プラクティス (英語) を提供することに注力しています。また、マイクロソフトでは、こうしたタイプのテクノロジを自社製品に組み込むにあたり、具体的なシナリオ内でお客様にどのようなリスクが生じるのか、その課題にどう対処できるのかについても深く検討しています。
ここからは、コンテンツ アイデアの開発で注視していることの 1 つである、ユーザー エクスペリエンス (UX) について詳しく説明します。
「責任ある AI」へのアプローチをめぐる UX の課題
Dynamics 365 Marketing では、UI デザインやデータ サイエンスの探求に注力するだけでなく、マーケティング コンテンツ作成者のニーズや志向を深く理解するための人間中心の研究にも力を入れており、責任ある AI の原則を UX に反映して、ユーザーが専門知識を強力に発揮できるようにしています。
マイクロソフトのビジネス アプリケーション & プラットフォーム担当コーポレート バイス プレジデントの Charles Lamanna は次のように述べています。「GPT-3 のような新しいテクノロジは、イノベーションにおける大躍進です。各チームがエンジニアリングとデザインの枠を超えて取り組み、AI 機能を責任を持ってお客様にお届けすることを意識的に考えています。私は Dynamics 365 Marketing を始めとするこうした製品を誇りに思います」
初期の研究で浮上した重要課題:
1. ユーザーが特定のニーズに合わせてコンテンツ アイデアを利用できるようにするためには、この機能のしくみの透明性をどのように確保できるか。
コンテンツ アイデアに対する明確な期待値を設定し、可能なことと不可能なことをはっきりさせることは、ユーザーの目標達成を支援するためにも、意図しない使い方をされないようにするためにも不可欠です。GPT-3 がキー ポイントを活用してどのように文面を生成しているかをユーザーが理解できるようになればなるほど、ユーザーはキー ポイントを容易に思い付いて入力し、有意義な案を得られるようになります。現在のコンテンツ アイデアの UX では、オンボーディング中の複数のポイントに [Learn more (詳細情報)] パネルを用意しています。このパネルは FAQ (よく寄せられる質問) に似た構造で、その機能を使用してできることやテクノロジのしくみといった上位の質問に対応しています。また、段階的開示などのデザイン原則に基づいて、必要な情報を必要なタイミングで提供するようにしています。たとえば、マーケティング担当者がキー ポイントを入力し、コンテンツ アイデアによって案が生成されるのを待つ間、ローディング画面で予想外の結果が提示される可能性があることを伝え、提案がどれもしっくりこなかった場合に次にすべきことのヒントを提供しています。私たちは今後も、ユーザー 1 人ひとりの選択がシステムの出力にどのような影響を与えるかを理解していただきやすくするための方法を模索していきます。
2. ユーザーがテクノロジのしくみを理解した後、システムを適切に制御できるようにするにはどうすればよいか。
人と AI のコラボレーションにおける基本的な柱は、ユーザーが意味のある監視と制御を行えるようにすることです。ユーザーは、適度な制御が可能であれば、目標や状況に合わせてシステムを使いこなし、システムを信頼できるようになります。コンテンツ アイデアで目指しているのは、コンテンツ作成者が自らの専門知識を発揮できるようにすることです。適切なレバーやボタンを提供することで、各自が自分に適した方法でシステムを使用できるようになり、人の判断が要らない部分のプロセスを自動化することができます。私たちはこの機能をすべての文面を作成してくれる魔法のツールではなく、ブレーンストーミングやライティングのパートナーと位置付けています。最終的に、コンテンツ アイデアの提案をそのまま使用するか編集するか無視するかは、ユーザー次第です。マイクロソフトの調査によると、生成された提案をより細かく制御したいと考えるユーザーが多いようです。たとえば、複数の提案から文面を部分的に切り貼りしたり、送信先や文章のトーンといった補足的な要素をシステムに指示したりできるようになることを望んでいます。私たちはこうしたニーズのある操作をどのように統合できるか、また、その他の関連するニーズの対応について模索していきます。
3. ユーザーがこのテクノロジのしくみと制御の仕方を理解した後、自分の説明責任を理解し、最終的な文面に対する自らの責任に自信を持てるようにするには、どうすればよいか。
GPT-3 のような学習済み大規模言語モデルは、汎用性を持つ反面、完全に正確な結果が得られるとは限りません。特に、製品の最新価格データのような特定の知識を必要とするタスクでは正確性が保証されません。最初に詳細なキー ポイントを与えたとしても、コンテンツ アイデアから提示されたカラー バリエーション、価格、販売日などは一見すると現実的なようで実は正しくないということもあります。マイクロソフトは、ユーザーが文面を作成する過程で正確さを確認しながら、必要に応じて編集できるしくみを確立することで、ユーザーがその文面の最終所有者として責任に自信を持てるようにしたいと考えています。また、[Learn more] パネルでは、「提案を一字一句変えずに使用することはできますか」という質問に率直に答えています (手短に回答すると、「はい。正確さと適切さをよく確認していただければ問題ありません」)。今後に向けては、提案を下書きに追加する前に正確性をチェックするよう注意喚起することや、念入りに目を通すべき箇所にフラグを立てる機能などを検討しています。
4. マイクロソフトは、この UX の成果をどのように測定できるか。ユーザーがコンテンツ アイデアを使用して目標を達成するために、マイクロソフトがどのくらい信頼を確立し、創造性をサポートし、自信を高められたかをどのように把握するのか。
UX の成果の測定でよく注目されるのは、タスクの実行をスピードアップする支援ができたか? そのタスクはより高い品質で実行されたか? 結果に満足しているか? といった点です。コンテンツ アイデアでは、ユーザーにとって効果的なエクスペリエンスとなる手段をいくつも模索することが推奨されます。この機能は、候補となるさまざまなアイデアを提示し、それをユーザーが検討できるようにするものです。このため、ユーザーがインスピレーションの手段を複数求めているなら、1 つのアイデアをコピー アンド ペーストするよりも、多くのアイデアを生成し、そこから新しいアイデアを構築できる方が創造的です。コンテンツ アイデアに関する研究では、ユーザー エクスペリエンスを質的に評価する方法を検討しています。たとえば、この機能によってどれだけ創造的になれたと感じたか、最終的な文面を制御できることによってどれだけ自信を持てるようになったかといった点を評価することで、どの部分を改善すればユーザーの目標をサポートできるかをより総合的に理解できるようになるはずです。また、生成されたアイデアの有用性を把握するために、UI でフィードバックを収集するしくみも検討しています。
どれも難しい課題であり、まだすべての答えは出ていませんが、弊害を最小限に抑えつつユーザーが専門知識を発揮できるようなソリューションを開発し、常にお客様に優れたエクスペリエンスを提供することに全力で取り組んでいきたいと考えています。最終的には、しかるべき信頼を得られる質の高いエクスペリエンスを構築し、ユーザーや企業の皆様に持続的な価値をもたらすことを目指しています。マイクロソフトは、私たちと皆様の未来のために自ら学びすばやく知識を獲得して、このビジョンを実現できるよう取り組んでいきます。マイクロソフトは、GPT-3 などの AI テクノロジを責任を持って導入するために、多くの分野に目を配っています。コンテンツ アイデアはそうした注目の分野のうちの 1 つです。最近では、製品担当リーダーが責任を持って AI を導入するための 10 のガイドラインや新しい責任ある AI ダッシュボード (英語) を公開しました。
関連情報
コンテンツ アイデアは、プレビューとして提供されています (2021 年 10 月時点)。この機能の詳細や、AI を活用した他の新機能については、Dynamics 365 Marketing の 2021 年リリース ウェーブ 2 をご覧ください。
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