営業チームを率いるための 5 つの教訓
人をもうひと頑張りへと駆り立てるものは何でしょう。また、努力、全力投球、鍛練を推進するには、どのようなやり方が適しているでしょうか。さらに、日々精進して、課題に挑戦し、逆境を克服することを奨励するためにはどうすればいいでしょう。それは、個人の壁を打破することや、自我と関係しているかもしれません。それとも、自己を超越した何かを担うことでしょうか。または、単に成長することや、成功へ到達することと関係しているかもしれません。
営業プロセスを変革するには?
ワシントン湖への旅へとお連れします。辺りは暗く、静かで、涼しい風が吹いています。頬に当たる冷気を感じますか。それとも、肩に冷気を感じていますか。少しだけ目を閉じて下さい。水が跳ねる音と、オール受けが鳴らすかすかな音がした後、静寂が訪れ、また水の跳ねる音がします。まるでガラス張りのような湖面に、8 本のオールが波紋を作り出します。Bellevue に向かって西の方を見ると、どうやら夜が明けんとしているようです。ボートのバランスは完全に取れていて、全員が滑らかに、ぴったりと息を合わせてこいでいます。黄金の光を浴びながら、湖を進んで行きます。
ボート競技は、成功への歩みを完ぺきに体現しています。もし成功したければ、クルー (ボート競技チーム) における自分のポジションを死守しようとしないことです。毎日のように歩みを戻し、何度も失敗して挑戦することをいとわないようにします。恐れずに失敗を繰り返し、そこから立ち上がって進むことが、成功への道です。個人としても、団体としても、成功に向かって努力するよう人々を動機付けるリーダーになれるかどうかが、明暗を分けます。それは、グローバル営業チームのリーダーも、一流のボート競技チームのクルーも変わりません。
ワシントン大学クルーに入った大学 1 年生の私は、自分の身に何が起こるのかまったく理解していませんでした。私はボート競技一家で育ち、活動的な人生を送ってきたものの、ボート競技や団体スポーツの経験はほとんどありませんでした。それなのに「そんなにたいへんじゃないはずだから、まずは挑戦してみよう」と考えました。その道ではトップクラスの大学でボート競技をするということが、何を意味するのか知らなかったというわけです。ワシントン大学クルーは、米国で最も優れたボート競技プログラムとして格付けされていて、高いハードルがそびえていました。
入部テストには、100 人以上の若い女性が参加しました。中には初心者もいましたが、その多くが既に優勝経験を持つボート選手でした。最初の月には、大量のメンバーが辞めていきました。皆、体中が痛く、手にできた "まめ" は大きな "たこ" になりました。そして、幾度となく浴びせかけられる怒鳴り声に耐えなくてはならず、生き残るためには肉体的能力よりもずっと多くのものが必要であることを悟りました。
3 か月後に残ったのは、30 人でした。したがってボートは計 3 艇になります (各ボートに 8 人のメンバーと、舵を取る舵手 1 人が乗ります)。クルーが乗るボートは競技ランクで分けられています。チームで最も優秀な選手が乗るのが 1 つ目のボートで、2 つ目、3 つ目とランクが下がっていきます。私はかろうじて 3 つ目のボートに乗ることができていました。
私はワシントン大学クルーでの活動を通じ、リーダーシップについて多くのことを学びました。全力を出し切って粘り強く取り組む方法や、自分を信じて他のメンバーをサポートする方法、ただ生き残りに必死になるのではなく成長する方法、そして逃げ出さずに課題に向き合う方法を理解しました。1 月には、3 つ目のボートに乗る資格を得ました。そして競技シーズンの直前、2 つ目のボートへと昇格しました。自分の役割以上のことをこなし、ポジションを勝ち得て、競技に出場できるまでになりました。
以下に、ワシントン大学クルー時代に学んだ、リーダーシップに関する 5 個の教訓を紹介します。
1. 共通の目標の下に集結させる
ボート部初日、集まった人々の目的はさまざまでした。長年のボート選手経験を持ち、次のステップとして自然な流れで入部する人もいれば、ボート競技に初挑戦する意思を見せる人もいました。バックグラウンドやワシントン大学での専攻にかかわらず、コーチが私たちにまず教えてくれたことの 1 つが、これはエリートのためのボート競技プログラムだということでした。すべてを捧げて専心し、とてつもないハードワークをこなすという犠牲が伴います。予選を通過すれば大学ボート競技の最高峰として認められるので、私たちメンバーは大それたプロジェクトの一角を担います。私は肉体的にも、感情的にも、精神的にも、これまでの人生で最もハードで、苦しく、厳しい状況に飛び込むことになりました。メンバーは競技練習によって極限まで追いやられます。私も最初の数か月は毎日辞めることばかり考えていましたが、ただハードだからという理由で投げ出すのは嫌でした。そこで私が信じたのは、目標です。そして、すばらしいプロジェクトの一角を担えることと、成長できることを信じました。
リーダーの役目とは、何をやるべきか伝えることではありません。人々を、可能な限り最良の状態へと導くことです。私たちのコーチは、全員が結集できる、共通の目標を設定してくれました。私たちはワシントン大学クルーで、ブランドを担い、毎日だれよりも懸命に努力する世界に身を置いています。チームの一員であり、ボートを前へ進めるために協力しなくてはなりません。そして、互いを信頼する必要があります。競技シーズンが始まったとき私たちは、準備のためにできそうなあらゆる努力をすべて成し遂げたことを、確かめようと思いました。
2. "伸びしろを信じる" 心意気を奨励する
ある日のこと、私たちは湖で "フェザリング" の練習をしていました。フェザリングとは、オールのハンドルを回転させ、適切な角度と速度で水面に落とすことです。私はそのやり方を正しく理解できず、コーチは全員を止めてタイムをかけ、私に怒鳴りました。私は「からっきしフェザリングができない」と思いましたが、その後副コーチと数週間にわたって室内での練習を重ねました。コツを掴んでしまえば、それは何でもないことでした。
私は最近、Carol Dweck 著『「やればできる!」の研究―能力を開花させるマインドセットの力』(草思社、2008 年) という本を読みました。Dweck は、成功へと導く要素は能力や才能だけに限らないことと、その理由を説明しています。成功するかどうかの明暗をはっきりと分けるのは "伸びしろを信じる" 心意気です (この対義語となるのが "能力は決まり切っていると信じる" 心意気です)。湖で練習していたあの日、私は「できない」と思いましたが、それと同時に「私は本当によく頑張っているのだから、きっと掴めるはず」とも考え、実際にそのとおりになりました。
さらなる努力を重ね、実績を上げて、より多くの成果を出すよう人々を駆り立てる方法は、数多く存在します。リーダーは、成長 (つまり失敗から学び、失敗を克服し、それを糧にして能力を高めること) に重点を置くことが必要です。これは、人材育成の才能を構築する絶好の機会です。また、"伸びしろを信じる" 心意気に重点を置きましょう。個人が学び、成長する方法を改善することができます。
3. ポジティブなチーム文化を築く
ボートにおけるポジションを確保するまで、選手同士の争いは少なからずありました。それでも、ボートがセッティングされれば、チームとしての調和を取り始めます。競技の前は必ず、競技計画を確認しました。コーチは、各人が個人的に注力し特に成果を出そうとしている部分を、1 人ずつ簡単にやってみせるよう指示します。これによってチーム全員がポジティブな感覚を共有するようになります。仲間同士で「あなたはすごくフォロースルーに長けていると思う」、「あなたのレース前の集中力がすごいから、それがみんなに伝染して、チームとしての団結力が高まるの」というようなやり取りが生まれます。
特にスポーツの分野では、イメージ トレーニングというテーマに対して多くの研究が行われています。最高の実績を出している自分を思い浮かべ、イメージすることが、良い結果をもたらします。リーダーができるのは、模範を示して指導し、意思統一を図ることだけではありません。リーダーは、信頼と助け合いの文化をはぐくむ、絶好の機会に恵まれています。それはまず、敬意を持つことから始まります。また、信頼と助け合いのためには自己批判的になる必要がありますが、同時に "現在うまくいっているのは何か"、"今日うまくいきそうなことは何か" というポジティブな要素を探すことも必要です。成長を阻んでいることを止めるよう促すのと、継続すべきことを指摘するのは、どちらも等しく重要です。
4. 多種多様な学習、成功スタイルを奨励する
ボート チームの成長具合を測る方法の 1 つが、毎週恒例のエルゴメーターでのテストでした。テストでは 2 km を全力疾走します (または 2 km の "エルゴ テスト" を行います)。ほぼその間じゅう全速力で進むためには、すばやいストロークで開始しなくてはなりません。2 km の距離を "こぐ" のには 7 分ほどかかるのはわかっていましたが、これはたいへんに苛酷な運動です。こぐ動作の 1 つ 1 つをどのようにすべきか感覚で理解していたので、ときどき目を閉じることがありました。たとえ力が出せなくなってきていても、こぐ力は少しずつ強めていかなくてはなりません。推進力を維持する必要があり、後退は許されません。目を閉じると、自分が現在どの状態にあるのかはっきりとわかります。あるコーチが「なぜ目を閉じているんだ? ストロークの速度が落ちかけているなら、目を開くんだ」と怒鳴り、私は「わかりました」と答えました。目を開ける必要はまったくなく、私は結果、自己ベストを達成しました。
だれ 1 人として同じ人はいません。能力、スキル、物事へのアプローチは、皆異なります。したがって、多彩なメンバーの揃ったチームに所属するのはとてもいいことです。互いに学び合うことができるからです。目標を達成するための手法は皆異なっています。リーダーは、成長を阻んでいるように見受けられない限り、個人が最高の能力を発揮するために選んだ方法をサポートするといいでしょう。そして、最高の結果を出す方法がわかったら、個人個人の取り組みをサポートします。また、理解を示せば、一目置かれていると感じてもらうことができます。
5. 信頼を表す
秋も終わりに近づいたころ、私は特別に辛い 1 日を過ごしていました。暗闇、そして強風と土砂降りの中、ボートハウスに駆け込みました。あれは期末試験が迫っていて、だれもが疲れていたときのことです。その日は白波が立っていて湖に出ることができなかったので、ボートハウスに引きこもってエルゴメーターでタイム トライアルを行っていました。私がボートハウスでくすぶっているのに嫌気が差していたのを、副コーチが気付いてくれました。コーチは私を側に呼び出して、静かに語りかけます。「あなたを信じているわ。あなたならできるはず。競技シーズンに向けて頑張ってほしい。すごくよくやっているのだから、この調子で頑張って」。私はその日、やる気がみるみるうちに上がっていくのを感じました。それも "だれかが自分を信じてくれている" という、普通とは異なる種類のやる気です。
だれかの中に可能性を発見し、それを伸ばしてあげたいと思ったことはありませんか。人々を励ましたときのことを思い出してください。彼らは、瞳が輝き出すだけでなく、自分の役割を果たす責任をしっかりと負うようになります。これには、ちょっとした親しみやすいアドバイスや指導だけで十分なときもあります。一層の努力をしてもらうために必要なのは、1 人ではないこと、そしてリーダーとして彼らの成功を願っていることを伝えるだけです。Daniel James Brown 著『ヒトラーのオリンピックに挑んだ若者たち: ボートに託した夢』(早川書房、2014 年) では、熟練した職人であり船大工の George Yeoman Pocock による、このような言葉が引用されています。「ボート競技は、おそらく最も過酷なスポーツだ。競技が始まったら、中断することも、代理を頼むこともできない。人間の忍耐力の限界を要求される。したがってコーチは、心身両方において特別な忍耐力を維持するための秘訣を伝授しなくてはならない」
ボートは、信じられないくらい厳しいスポーツですが、優雅さと美しさも兼ね備えています。私たちは、すばらしい競技シーズンを過ごしました。今でもボートから学んだ教訓は、キャリアを追求するとき、多彩なメンバーが揃った大規模なチームと活動するとき、長所を見つけられるように他者を教え導くとき、必ず役に立っています。また、コーチやチームメイトから受けた刺激は、今も私の糧になっています。そこで私は考えます。どんなに過酷な状況下でもチームの絆を築き上げるだけでなく、一生役立つ教訓を伝えることができるリーダーになること。それが、人々を動機付ける鍵なのではないでしょうか。
営業リーダーとしての能力を高めましょう。
----------
このブログ記事は、2015年11月12日に米国のブログで公開された 5 Lessons for Leading a Sales Crew の抄訳です。

Like
Report
*This post is locked for comments