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「魚はあげない、釣り方を教える」シスメックス様流・市民開発の極意とは? ~Power Platform × AIで起こす現場主導のDX革命~

Mami Uchida Profile Picture Mami Uchida Microsoft Employee


秋葉 航太 パワープラットフォーム ソリューションエンジニア 日本マイクロソフト株式会社

業のDX推進における共通課題

企業のDX推進において、「現場の業務改善が進まない」「IT部門のリソースが足りない」という課題は、どの企業でも共通の悩みです。そのようなお悩みの共有を始め、会員同士の交流を通じて、業務変革をお互いに協力して推進するための会、Nippon PPEC (Nippon Power Platform Enterprise Communityがあります。
本ブログで紹介しますシスメックス株式会社(以下、シスメックス様)様の事例は、この会のイベントである「PPEC Meetup」で、会員企業様向けに、同社DC戦略推進本部 情報ソリューション部 東 昌芳様のご登壇で昨年秋に共有いただいたものです。会員以外の企業の方にも、ぜひご参考にしていただきたく、このブログにて改めてご紹介いたします。 

シスメックス様は、ヘマトロジー(血球計数検査)分野においてグローバルシェア50%以上を誇る、検体検査領域のリーディングカンパニーです。世界190以上の国・地域に製品を輸出し、グループ従業員数11,457人、海外売上高比率86.7%を達成しています。世界中の医療を支える同社では、現場の細かな業務改善ニーズが継続的に生まれる一方で、IT部門主導だけではすべてに迅速に応えきれないという課題もありました。そこで同社が推進したのが、現場自らが業務を改善する「市民開発」です。その基盤として活用されているのが、Microsoft Power Platform です。




Power Platform
は、従来必要とされている専門的なプログラミングを最小限にして、業務改善を形にできる「ローコード」プラットフォームです。業務アプリを作るPower Apps、日々の定型作業や承認フローを自動化するPower Automate、データを可視化・分析するPower BIを中心に、Webサイトを構築するPower Pagesや、生成AI/チャットボットを設計できるMicrosoft Copilot Studioなどの製品群で構成されています。部門・現場が自ら改善を進めやすい一方で、環境の分離やデータ接続(コネクタ)、権限管理といったガバナンス設計とあわせて導入することで、スピードと統制を両立した全社展開が可能になります。




シスメックス様の市民開発成果

総務省の情報通信白書によると、日本企業のデジタルトランスフォーメーションにおける最大の課題は「人材不足」が53.1%、次いで「資金不足」が26.9%となっています。しかし現在、シスメックス様では「IT部門主導では、このスピードとスケールは絶対に達成できなかった」と東様が語るほどの変革が起きています。全社員の約13%にあたる583名以上が市民開発トレーニングを受講しており、受講者数累計(延べ)は1,676名を超えています。これまでに390以上のアプリ、2,300以上のPower Automateフロー、50以上のレポートが生み出されています。AI Builder活用では23件のAIアプリがリリース済み(7件が開発中)、RAGシステムによるAIチャットボットは32件がリリース済み(21件が開発中)という実績を上げています。年間14,000時間以上の工数削減を達成し、従来のIT部門主導では困難だったスピードとスケールでの業務改善を実現しました。市民開発者の育成数は、FY2022の102名からFY2025には583名へと急成長を遂げています。

 
FY2022年102名からFY2025年583名へと急成長を遂げた市民開発者の育成数 

「魚はあげない、釣り方を教える」という哲学

シスメックス様の市民開発推進における最大の特徴は、「魚はあげない、釣り方を教える」という明確な哲学です。この取り組みでは、Power Platformの利活用支援を通じて、各部門の生産性向上や従業員満足度の向上を果たすのみならず、Power Platformを活用して変革を主導する人材をDX人材ととらえ、その育成を通じて全社のDX推進ムーブメントを巻き起こすことを目指しています。「作れる自由」を担保するため、「アクセル先・ブレーキ後」のアプローチを採用しました。本当の危険だけを確実に潰しつつ、申請や審査などの重い抑制は当面入れずに、作る自由を担保しています(Minimum Viable Guardrails (MVG)の考え方)。具体的なガードレールとして、社外宛てメール送信禁止、基幹システムへの直接アクセス禁止、Microsoft製以外のコネクタをブロック、Dev/Prod環境分離などを設定しています。また、ハッカソンは「2日間」で成果を出すことにこだわり、「自分たちでもできる」という自信を醸成することで、市民開発者の自走を促進しています。

AI Builder × Power Platform の先進活用事例

シスメックス様では、現場主導で実践的なAI活用が進んでいます。
情報収集AIアプリでは、業界の情報収集から、翻訳・要約して関係者へのメール配信をAIで実現しました。収集したい情報に関するキーワードをあらかじめ設定し、キーワードを含むニュースが発行される度に自動的にリスト化、AI Builderがニュースの要否を判別し、要と判定されたニュースを配信する仕組みです。定型の文章に整えて下書き作成で10分/日削減、SharePoint Listに即時反映で465分(1営業日分)/四半期削減を実現し、定型業務を年間71時間削減(9営業日相当)しました。



業界ニュースの収集から要否判定、下書き作成、SharePoint List反映までをAIで自動化し、定型業務を年間71時間削減


IR・広報部門では、証券会社から届くアナリストレポートの集計と配信をAIによって効率化しました。PDFのレポートをアップロードするだけで、掲載日、証券会社名、レポートタイトル、目標株価、カテゴリ、レーティング、サマリーが自動的にリスト化され、数十分かかっていた作業が数秒に短縮されました。

Power Pagesによる試験成績書のWeb公開では、顧客・代理店が公開サイトから自由にダウンロードできる仕組みを構築しました。導入前は管理ルールが定まっておらず登録も煩雑で、問合せ毎に対応で工数がかかっていましたが、内製化により顧客体験向上と工数削減を同時に実現しました。


Power Pagesを使って外部向けのサイトを構築 様々な条件で検索してドキュメントを検索・ダウンロードが可能

取り組みによる変化と成果

数字で見る成果として、全社員の約13%にあたる583名以上がトレーニングを受講済みで、情報発信サイトでは140件以上の記事を公開、サポート対応件数は840件以上に達しています。市民開発者により開発されたアプリは390以上、フローは2,300以上、50以上のレポートとなり、現場ニーズに即した改善を短期間で実現しました。
「現場主導」へのシフトも顕著で、自発的にDXに取り組む組織が増加しています。部門単位で市民開発(Power Platform活用)を推進し、ハッカソンなどの取り組みを実施する組織が11に広がり、うち6組織は事業部門主導で自主的な活動を展開しています。事業部門からハッカソンの自主開催が行われるようになり、IT部門は引き続き支援に徹することで、事業部門による主体的な活動を推進しています。
AI活用の民主化も進み、市民開発者による現場の課題ありきの実践的な23件のAIアプリ、RAGシステムによる32件のAIチャットボットが既にリリース済みで、更に増加中です。単なるチャットアプリ活用を超えて、生成AI組み込みアプリを開発し、業務自体を変革する取り組みが展開されています。
これらの成果は、シスメックス様の「魚はあげない、釣り方を教える」という哲学の実践により実現されました。トレーニングとサポート体制の充実、現場主導の文化醸成、AI活用の民主化が相互に作用し、持続可能なDX推進の基盤となっています。

PPECコミュニティへの示唆:成功の鍵は「伴走」


個人の取り組みを起点に、部門変革・全社の業務改革へ波及させるボトムアップの成長モデル


シスメックス様の成功から得られる最も重要な示唆は、「伴走」の重要性です。「えこひいき」上等で始めるアプローチでは、全社一律展開を諦め、取り組める組織から展開する方針を採用しました。管理職への先行説明で「やってよい」を保証し、役員や本部長の奨励でハッカソン自主開催が拡大しました。

多層サポート体制で心理的・技術的ハードルを解消

止まったら即支援する多層サポート体制では、様々なサポートでつまずきを減らし、心理的・技術的ハードルを速やかに解消しています。コミュニティ(常設)、研修・よろず相談(定例開催)、ハッカソン(イベント)の3層構造でサポートを提供しています。

MVPの徹底とAIを「手段」として位置づける柔軟性

「最小要件で早く出す」の徹底(MVP: Minimum Viable Product)により、過度な作り込みを避け、最小限の価値を早期リリースし、フィードバックループを早期に回してPoC止まりを防止しています。AIは「バズワード」ではなく「手段」と位置づけ、課題から解決手段を選定する原則化を行い、非AIの方が速く安全なら非AIを即採択する柔軟性を持っています。

ボトムアップの成長プロセス

シスメックス様の取り組みは、市民開発者の育成から組織全体への波及を示すボトムアップの成長プロセスを体現しています。各人の生産性向上から部門全体の変革、そして全社の業務変革への展開という段階的な成長戦略により、持続可能なDX推進を実現しています。
これらの実践的アプローチは、PPECコミュニティにおいても適用可能な普遍的な原則として、多くの組織での市民開発成功に貢献できる知見となっています。

まとめ:Power Platformが組織文化を変えるドライバーに

シスメックス様の事例は、Power Platformが単なるツールではなく、組織文化を変えるドライバーになることを示しています。現場への深い信頼と適切なサポートの組み合わせにより、IT部門主導では困難だったスピードとスケールでのDX推進が実現されました。
「魚はあげない、釣り方を教える」という哲学のもと、市民開発者を育成し、自分の課題を自ら解決できる人材を増やすことで、個人の取り組みから部門全体の変革へ、そして全社の業務変革へと波及させています。
AI機能統合による可能性の拡大も顕著で、AI Builderを活用した現場主導のAIアプリ開発により、業務自体を変革する取り組みが加速しています。

今後の展開

トップダウン型業務変革との融合
業務変革・効率化の更なる推進
生成AI活用による業務変革の加速
これら3つの柱で活動を拡大・加速させ、全社のDX進展に貢献することを目指しています。

今回は、PPEC Meetupでご登壇いただいたシスメックス様の事例をご紹介しました。本記事で紹介したシスメックス様の実践知とノウハウが、他社の市民開発推進の参考となれば幸いです。

Nippon PPEC とは

Nippon PPEC (Nippon Power Platform Enterprise Community) とは、Power Platform を活用して業務変革を実践する日本企業が相互支援をするためのコミュニティで、Power Platform の利活用の情報交換の場となっています。定期的にMeetup会を開催しており、この6 月の Meetup 会は、『パワプラ関ケ原』という一年で最も大きいイベントで開催する予定です。PPEC についてはこちらのリンクを、昨年度の『パワプラ関ケ原』については「81社250名が熱狂!Power Platformがつなぐ技術と情熱がぶつかる『パワプラ関ヶ原』」のブログをご覧ください。

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